「肝機能」という名前でも、働きを測る数値は少ない

日本の健康診断では、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GT(γ-GTP)の3項目が特定健診でも職場の定期健康診断でも必須の項目です。人間ドックや病院の採血では、ALP、ビリルビン、アルブミン、総たんぱくが加わることもあります。ただ、名前は「肝機能検査」でも、これらの多くは肝臓がどれだけ働いているかを測っていません。肝臓や胆管の細胞が傷んだときに血液へもれ出る酵素の量を見ているのです。米国の消化器病の専門学会(ACG)のガイドラインが「肝機能検査」ではなく「肝臓の血液検査」と呼ぶのはこのためです。

働きそのものに近いのは、肝臓がつくるたんぱく質であるアルブミンと、肝臓がつくる凝固因子に左右される血液の固まりやすさの数値です。酵素が高くてアルブミンが正常な結果と、酵素は正常でアルブミンが低い結果は、まったく別のことを伝えています。

この違いを知っておくと、よくある戸惑いが解けます。ALTが少し高くても、肝臓はきちんと働いていることがあり、検査結果が矛盾しているわけではありません。

肝機能検査の項目と、それぞれの役割

検査結果の用紙では、項目が読み方とは関係のない順番で並んでいることがよくあります。項目ごとにたとえを持っておくと、混同しにくくなります。

  1. AST(GOT)とALT(GPT)肝臓の細胞の中にある酵素で、細胞が傷むと血液にもれ出ます。ASTは筋肉や心臓にも多く含まれます。
  2. ALPとγ-GTP胆汁の通り道に関わる酵素です。ALPは骨と肝臓で働く整備士のような存在、γ-GTPは工場に取り付けた汚染センサーのような存在です。
  3. ビリルビン古くなった赤血球から出る黄色い色素で、使い古した金属の錆のようなものです。肝臓がこれを胆汁へ流します。
  4. アルブミンと総たんぱく肝臓がつくるたんぱく質で、この検査の中では「働き」をいちばん直接に映す数値です。

ASTとALT、どちらが大事? ALT30という目安

どちらか一方だけでは決まりません。ASTは筋肉などにもあるため、肝臓をより直接に指すのはALTです。それでも2つは対で読み、どちらがどれだけ高いかという比率にも意味があります。

いちばん大切なのは組み合わせです。ALTとASTがALPより大きく上がっていれば、問題は肝臓の細胞そのものにあると考えます。ALPのほうが大きく上がっていれば、胆汁の流れに目が向きます。アメリカのガイドラインは、この見分け方を精密検査全体の出発点にしています。

日本の目安も知っておきましょう。特定健診では、AST・ALTが31 U/L以上で保健指導、51 U/L以上で医療機関の受診勧奨とされています。さらに日本肝臓学会は2023年の「奈良宣言」で、ALTが30 U/Lを超えたらかかりつけ医に相談することを呼びかけています。検査機関の基準範囲の内側に収まっていても、30を少し超えるALTは一度相談してよい数値です。

γ-GTPがいちばん誤解されやすい理由

γ-GTPは「お酒の量を映す数値」と思われがちですが、それだけではありません。飲酒の指標をまとめたレビューは、肝臓の酵素はアルコールに特異的ではなく、ほかの原因と見分けるには別の検査が必要だとはっきり述べています。

同じレビューは、ALTやγ-GTPがインスリン抵抗性やメタボリックシンドロームとも連動することを指摘しています。脂肪肝の人を対象に飲酒の指標を調べた研究でも、γ-GTPは複数の要因に同時に左右され、糖鎖欠損トランスフェリン(CDT)という別の指標のほうが、肝臓の傷みとは独立に飲酒量を反映していました。

つまり、γ-GTPが高いのは「何かが肝臓に負担をかけている」という合図です。お酒はその候補のひとつで、体重、いくつかの薬、胆道の病気、脂肪肝も候補になります。特定健診では51 U/L以上で保健指導、101 U/L以上で受診勧奨とされています。

日本でも多い脂肪肝と、一度は受けたい肝炎ウイルス検査

日本の3つの健診施設で2009年から2010年に健診を受けた5,075人を超音波で調べた研究では、お酒をあまり飲まない人(1日20g以下)でも29.7%に脂肪肝が見つかりました。男性では41.0%、女性では17.7%です。肥満でない人でも、中性脂肪やLDLコレステロールが高いほど脂肪肝は多くなっていました。

健康診断で肝臓の数値が少し高いとき、背景にこの脂肪肝があることはめずらしくありません。だからこそ肝臓の数値は単独ではなく、体重や血糖、脂質の数値と並べて読みます。

もうひとつ、日本で大切なのがB型・C型肝炎ウイルスです。肝炎は自覚症状がほとんどないまま進むことがあり、肝炎情報センターは、健康診断などの機会に少なくとも一度は肝炎ウイルス検査を受けるよう勧めています。肝がんの患者さんの約半数はC型肝炎ウイルスの感染が関係しているとされます。ASTやALTが正常でも、これまで一度も受けたことがなければ確認しておく価値があります。

肝機能の数値を動かすもの

γ-GTPはALPと並べて読みます。2つがそろって上がっていれば、肝臓の細胞より胆管のほうに目が向きます。ビリルビンは血算と一緒に読みます。赤血球がいつもより速く壊れたときにも上がるため、肝臓が傷んでいることとは限りません。

どの数値も、検査前の過ごし方と合わせて読みます。激しい筋トレや運動の直後は筋肉からASTが上がり、最近のかぜなどのウイルス感染でもしばらく肝臓が刺激されることがあります。そして市販薬を含む多くの薬やサプリメント、漢方薬もこれらの数値を動かします。アメリカのガイドラインも、まず処方薬と市販薬をすべて確認するよう医師に求めています。

少しだけ高かったときにすること

軽い基準値超えはよくあることで、一時的なことも多いものです。基準範囲はもともと、健康な人でも20人に1人ほどが外れるように決められています。ふつうの次の一歩はすぐに画像検査をすることではなく、思い当たる原因をいったん減らしてから、数週間後に再検査することです。

上昇が続くときは、よくある原因から順に調べます。ウイルス性肝炎、脂肪肝、お酒、薬が先で、鉄の過剰や自己免疫性肝炎のようなまれな病気はそのあとです。どの順番で調べるかは、数値の組み合わせを見ながら医師が決めます。