一覧を見る前に

この一覧は、一般的な検査結果によく載っている項目の、成人の基準値をまとめたものです。血球の数、血糖とHbA1c、腎臓と肝臓の項目、TSH、フェリチン、LDLコレステロールを取り上げます。読むための目安として使ってください。判定のよりどころではありません。あなたの値に当てはまる基準値は、結果の用紙で値の横に印刷されているものです。

日本では、主要な40項目について測定値の標準化が進み、全国で共通に使える「共用基準範囲」が日本臨床検査標準協議会(JCCLS)によって示されています。もとになったのは、全国3つの大規模調査を合わせた6,345人分の健康な人のデータです。多くの病院がこの共用基準範囲を採用していますが、施設独自の基準値を使っている病院もあります。

共用基準範囲がない項目では、施設ごとの差がさらに大きくなります。たとえばフェリチンは、国立循環器病研究センターでは女性(閉経前)6.23〜138 ng/mL、男性39.90〜465 ng/mL、国立がん研究センター中央病院では女性10〜120 ng/mL、男性25〜280 ng/mLと印刷されています。どちらも正しく、測定方法と集団が違うだけです。

基準値はどうやって決まるのか

共用基準範囲を作るときは、BMIが28以上の人、定期的に薬を飲んでいる人、妊娠中の人などを除いた健康な人を集め、前の晩から10時間以上食事をとらずに、朝7時から10時の間に、座って20分以上休んでから採血しました。そのうえで、真ん中の95%が入る範囲を基準範囲としています。つまり、健康な人でも20人に1人は、ひとつの検査で範囲の外に出ます。その人たちは病気なのではなく、分布の端にいるだけです。

ここから、あまり知られていない結果が生まれます。20項目の検査を受けると、健康な人でもおよそ3人に2人は、少なくとも1項目に「H」や「L」が付きます。項目数の多い健診で印がどこかに付くのは、例外というより普通のことです。

日本臨床検査専門医会も、かつて「正常値」と呼ばれていたものが「基準値」と改められたのは、正常と異常をはっきり分ける値ではないからだと説明しています。印は、その値が健康な人の分布の端にあると知らせているだけで、それ以上のことは言っていません。

血球の数(血算)

成人の値です。単位は施設によって表記が違います。白血球の3.3×10³/µLは3,300/µLと同じで、血小板の158×10³/µLは15.8万/µLと同じです。日本の結果の用紙では、血小板を「万/µL」で示すことがよくあります。

男女の差がいちばん大きいのはヘモグロビンです。共用基準範囲では、男性13.7〜16.8 g/dL、女性11.6〜14.8 g/dLです。一方、人間ドック学会の判定区分では「異常なし」を男性13.1〜16.3、女性12.1〜14.5としており、同じ値でも、病院の用紙と健診の判定で扱いが変わることがあります。用紙の基準値がよりどころになるのはこのためです。

血算は1項目ずつではなく、まとめて読みます。ヘモグロビンは赤血球の大きさを示すMCVやフェリチンと、白血球はその内訳と、血小板はほかの項目と一緒に見ます。1項目だけがわずかに外れているのと、いくつもの項目が同じ向きに動いているのとでは、意味が違います。その違いは、医師に尋ねてよい問いです。

ヘモグロビン

男性

13.7〜16.8 g/dL

ヘモグロビン

女性

11.6〜14.8 g/dL

MCV

赤血球の大きさ

83.6〜98.2 fL

白血球

総数

3.3〜8.6 ×10³/µL

血小板

15.8〜34.8 万/µL

帯は目安として示しています。あなたに当てはまるのは、ご自分の検査結果に印字された基準値です。

血糖、肝臓、腎臓

LDLコレステロールのように、基準範囲とは別に「臨床判断値」で判断する項目があります。共用基準範囲のLDLコレステロールは65〜163 mg/dLですが、日本臨床検査医学会の一覧では、動脈硬化の予防のガイドラインに沿って140 mg/dL未満を臨床判断値としています。日本の結果の用紙では、血糖、脂質、クレアチニンは主にmg/dLで示されます。

クレアチニンは腎臓から出ていくだけでなく、筋肉でも作られます。そのため、クレアチニンからeGFR(推算糸球体濾過量)を計算する式は、年齢と性別を筋肉量の代わりに使います。日本で使われている式も、女性では0.739を掛けて補正します。eGFRは測った値ではなく、計算で出した推定値です。

ALTは、印刷される上限が施設によって大きく違う項目です。共用基準範囲は男性10〜42 U/L、女性7〜23 U/Lですが、日本肝臓学会は「奈良宣言2023」で、ALTが30 U/Lを超えたらかかりつけ医を受診するよう呼びかけています。同じALTでも、用紙では印が付かず、健診では指摘される、ということが起こります。

フェリチンには落とし穴があります。体の鉄の貯蔵量を反映しますが、炎症でも上がるため、感染症や炎症のある時期には、安心できそうなフェリチンの値が鉄の不足を隠すことがあります。

検査共用基準範囲などの目安読むときのポイント
空腹時血糖73〜109 mg/dL空腹時のみ。健診では100以上で保健指導、126以上で受診勧奨。
HbA1c4.9〜6.0 %(NGSP)空腹でなくても測れる。健診では5.6以上で保健指導、6.5以上で受診勧奨。
クレアチニン男性0.65〜1.07 · 女性0.46〜0.79 mg/dL筋肉量に左右される。eGFRと一緒に読む。
eGFR60以上 mL/分/1.73m²計算による推定値。健診では60未満で保健指導、45未満で受診勧奨。
ALT男性10〜42 · 女性7〜23 U/LASTやγ-GTと一緒に読む。30を超えたら受診を、が肝臓学会の呼びかけ。
TSH0.61〜4.23 µIU/mL(2施設の例)1日のなかで変動する。朝の採血が比べやすい。
フェリチン施設差が大きい(本文参照)炎症で上がり、鉄の不足を隠すことがある。
LDLコレステロール基準範囲65〜163 mg/dL臨床判断値は140未満。目標値はリスクによって医師が決める。

基準範囲、臨床判断値、健診の判定値

このような一覧に並ぶ数字が、すべて基準範囲というわけではありません。ここを取り違えると、必要のない心配が増えます。結果の用紙に出てくる数字には主に4種類あり、それぞれ答えている問いが違います。

上の表の「保健指導」「受診勧奨」は、3つめの種類にあたります。特定健診では、空腹時の採血ができないときはHbA1cを測ることになっており、食事の影響を受ける血糖の値だけで判断しないしくみになっています。

126
「糖尿病型」とされる空腹時血糖(mg/dL)。健診では受診勧奨判定値にあたる。[3]
6.5 %
「糖尿病型」とされるHbA1c。健診でも受診勧奨判定値。[8]
140
LDLコレステロールの受診勧奨判定値(mg/dL)。共用基準範囲の上限163とは別の数字。[8]
  1. 基準範囲健康な人の95%が入る範囲。施設の測定方法ごとに決まり、少し外れるのは健康な人でもよくあることです。
  2. 臨床判断値(診断の目安)学会が決めた境目です。日本糖尿病学会の基準では、空腹時血糖126 mg/dL以上、またはHbA1c 6.5%以上を「糖尿病型」とします。
  3. 健診の判定値特定健診では、厚生労働省のプログラムが「保健指導判定値」と「受診勧奨判定値」を決めています。予防のための目安で、基準範囲とは別物です。
  4. パニック値命に関わるほど外れた値です。日本臨床検査医学会は、検査部門が指示した医師に確実に第一報を届ける体制をつくるよう提言しています。

基準値を動かすもの

性別と年齢で基準値そのものが変わる項目があります。共用基準範囲では12項目が男女別で、女性は5項目について45歳前後を境に分けて設定されています。閉経の前後で値が変わるためです。ヘモグロビンの下限は、思春期までは男女で同じくらいで、その後に分かれます。妊娠中はさらに下がり、2024年の国際的な解析では妊娠初期で約11.0 g/dLでした。子どもには多くの項目で子ども用の基準値があるので、子どもの結果をこのような成人の一覧で読んではいけません。

結果の用紙に表れない変動もあります。ひとつは測定方法で、経過観察の途中で検査施設が変わると、あなたの体は何も変わっていないのに値が動くことがあります。もうひとつは時刻です。TSHは早朝に最も高く、ある大病院のデータでは、午後の早い時間には朝7時より最大で約4分の1低くなっていました。血清鉄も朝に高く夕方に低いことが知られています。朝の採血のほうが比べやすいのはこのためです。

3つめは準備です。共用基準範囲そのものが、10時間以上の絶食のあとに採血した値から作られています。欧州の採血の勧告も、絶食を含む検査前の準備を正しい結果の一部としています。食事、時刻、検査施設の変更で動いた可能性がある値なら、同じ条件でもう一度測るべきかを尋ねてよいのです。

「理想の値」と、本当に注意すべきサイン

「理想値」をうたう一覧は、別の問いに答えています。基準範囲は健康な人の分布を表すもので、目的に合わせて選ばれた目安とは違います。健診の判定値もそのひとつで、たとえば人間ドック学会の判定区分では、空腹時血糖の「異常なし」は70〜99 mg/dLとされ、共用基準範囲の上限109より低く設定されています。どちらもあなたの施設の基準範囲ではなく、医師と相談せずに治療を決める根拠にはなりません。

本当に注意すべきサインは、1文字の印よりもパターンに表れます。基準範囲から大きく外れた値、同じ向きに動いている関連項目、前回の自分の結果からのはっきりした変化、症状と一緒に出た異常値。こうした場合は、早めに医師に相談してください。命に関わるほど外れた値(パニック値)は、検査部門から指示した医師に直接連絡する仕組みが多くの医療機関にあり、最も急ぐ結果があなた任せにならないようになっています。

検査項目が多いほど安心というわけでもありません。成人25万1,891人を対象にした一般的な健康診断の研究をまとめたコクランレビューでは、死亡率への効果はほとんど、あるいはまったく見られませんでした。項目が1つ増えるごとに、説明が必要な印が付く機会も1つ増えます。

結果の用紙が教えてくれるとよいこと

値と基準範囲と印だけでは、いちばん難しい部分が残ります。それが自分にとって問題かどうかの判断です。米国の家庭医療の総説は、結果の用紙にそれを平易な言葉で書くべきだと述べています。すぐに心配はいらない、次の受診で相談する、早めに医師に連絡する、のどれかです。

見せ方も役に立ちます。18件の研究をまとめた2024年のシステマティックレビューでは、結果を基準範囲の横棒の上に示すと、数字と範囲だけのときより理解が深まり、ネットで調べたり医師に問い合わせたりしたくなる気持ちも減りました。多くの結果の用紙にはまだそのどちらもないので、役に立つ問いは自分で持っていくことになります。

受診のときは4つの問いを持っていきましょう。どれくらい外れているか、どちら向きか、関連する項目は同じ傾向か、前回の結果と比べてどうか。この4つが、このような一般的な一覧を、あなた自身についての会話に変えてくれます。