まず結論から

健康診断の前日は、夕食を21時ごろまでに済ませ、その後は水かお茶だけにして、当日の朝は何も食べずに受診する。これが日本の健診機関でもっとも多い案内です。たとえば済生会神奈川県病院の健診センターは「前日の午後9時までに」夕食を済ませ、採血や胃の検査の前には10時間以上の空腹が必要だと案内しています。

この「10時間」には根拠があります。厚生労働省の「標準的な健診・保健指導プログラム」は、特定健診(40〜74歳のメタボ健診)での「空腹時」を絶食10時間以上と定めています。朝9時に採血するなら、前夜23時が理論上の限界で、21時なら余裕をもって条件を満たせます。

なぜ食事の時刻が問題になるのか。食事のあとは、血液中の糖と脂肪が数時間にわたって大きく変化します。朝食後に測った空腹時血糖は、その朝食を測っているのであって、ふだんの体の状態ではありません。一方で赤血球の数のように食事でほとんど動かない項目もあり、血球の検査は一日のどの時間でも受けられます。

そして、どの表よりも優先されるルールがひとつあります。受診する健診機関から届いた案内に従うことです。案内に「絶食」とあるのに食べてしまったら、採血の前に受付で伝えてください。食後に採った血液を空腹時として読むと、結果は少しずれるどころか、正しく判定できなくなります。

「絶食」とは、何をしないことか

決められた時間、水やお茶などカロリーのない飲み物以外は口にしないことです。日本動脈硬化学会の2022年版ガイドラインも「10時間以上の絶食」を空腹時とし、水やお茶などカロリーのない水分は飲んでよいと明記しています。あめやガム、たばこも当日の朝は控えるよう案内する健診機関が多くあります。

簡単そうに見えて、意外と誤解されています。採血に来た外来患者150人に聞いた調査では、絶食を正しく説明できたのは39%だけで、46%は「前日に食事を終えていれば時刻は関係ない」と考えていました。

混乱するのは受診者のせいばかりではありません。検査医学の専門家自身が、絶食の定義は施設や文献によってばらばらだと指摘し、欧州の作業部会が統一を呼びかけたほどです。日本でも、お茶を認める施設と、水や白湯だけを認める施設があります。

実際の流れはこうです。前日の夕食を早めに終え、夜も朝も水分はふつうにとり、採血が終わるまでそれ以外は口にしない。これで十分です。

52 %
同じ調査で、絶食について何の説明も受けていなかった外来患者の割合。[12]
60 %
絶食が必要な検査に、正しく準備して来院できた外来患者の割合。[12]

検査ごとに見る、絶食の必要性

次の表は目安です。自分の健診の案内と照らし合わせて使ってください。国の特定健診のルールで「空腹時」の条件がついているのは、中性脂肪と血糖の2つです。

それでも健診全体が「朝食抜き」になるのは、同じ日に胃の検査や腹部超音波検査を受ける人が多く、これらにも同じ食事制限がかかるためです。腎機能や電解質の検査のように食事の影響が小さい項目も、同じ採血でまとめて採られます。

検査絶食食べるとどうなるか
空腹時血糖10時間以上食後すぐに上がり、空腹時の値として読めなくなります。食事開始から3.5時間以上あけた採血は「随時血糖」として扱われます。
中性脂肪10時間以上が基本食後に上がります。やむを得ず食後に採った場合は「随時中性脂肪」として、175 mg/dLという別の基準で判定します。
LDLコレステロール原則として空腹時計算に中性脂肪を使うことがあり、食後採血ではLDLの代わりにNon-HDLコレステロールで評価できます。
HbA1c不要過去1〜2か月の血糖を反映するため、一回の食事は影響しません。
血球(赤血球・白血球・血小板)不要軽い食事でいくつかの値がわずかに動く程度で、絶食は求められていません。
肝機能(AST・ALT・γ-GTP)通常は不要ふつうの食事ではほぼ安定しています。前日の飲酒のほうが問題になります。
腎機能(クレアチニン・eGFR)不要ふつうの食事のあとでもほとんど変わりません。
鉄・フェリチン朝・空腹が望ましい血清鉄は一日の中で変動し、食後に上がります。鉄剤を飲んでいる場合は事前に相談を。

血糖の検査は、何時間あければよいか

日本の健診では10時間です。特定健診のルールは空腹時血糖を「絶食10時間以上」で採血したものと定め、食事開始から3.5時間以上10時間未満の採血は「随時血糖」、3.5時間未満は「食直後」として扱います。米国の公的情報では8〜12時間とされることもありますが、日本の健診の案内は10時間を前提にしています。

時間にこだわるのは、判定の境目が近いからです。日本糖尿病学会の基準では、空腹時血糖が110 mg/dL未満なら正常型、126 mg/dL以上なら糖尿病型です。特定保健指導では100 mg/dL以上がリスクとして数えられます。本当は空腹でなかった採血は、この境目を簡単に越えてしまいます。

HbA1cは仕組みが違い、食事の影響を受けません。健診の項目に両方があるなら、朝のルールを決めるのは空腹時血糖のほうです。国の指針も、絶食を案内しても食べてから来る人がいることを前提に、空腹時血糖とHbA1cの両方を測ることが望ましいとしています。

コレステロールの検査にも絶食は必要か

日本の健診では、いまも空腹時の採血が基本です。ただ、考え方は変わりつつあります。欧州動脈硬化学会と欧州臨床化学連合は2016年、脂質検査は絶食なしを標準にしてよいとする共同声明を出しました。

差は小さいからです。ふつうの食事のあと、中性脂肪は平均で最大26 mg/dLほど上がり、総コレステロールとLDLコレステロールは8 mg/dLほど下がる程度で、HDLコレステロールはほとんど変わりません。食後の値でも、心血管の病気の起こりやすさを空腹時と同じように予測できます。

日本動脈硬化学会の2022年版ガイドラインもこの流れを取り入れ、空腹時の中性脂肪は150 mg/dL以上、食後を含む「随時」は175 mg/dL以上を高トリグリセライド血症としています。特定健診でも、やむを得ず空腹時以外に採血した場合は随時中性脂肪で判定してよいとされています。つまり食後でも受けられる脂質検査はありますが、判定の物差しが変わります。

健診機関が絶食を求めているなら、その案内に従ってください。それが施設の手順であり、前回の中性脂肪がとても高かったなど、あなたに固有の理由がある場合もあります。

水とお茶はよい、コーヒーは控える

水やお茶は絶食中も飲めます。日本のガイドラインが認めているのは「カロリーのない水分」です。ただし当日の朝については、コップ1杯程度、受付の2〜3時間前までと量と時刻を決めている施設が多く、水と白湯だけを認める施設もあります。

コーヒーは、砂糖もミルクも入れないブラックでも控えるのが一般的です。健康な男性を対象にした試験では、食事の1時間前にカフェイン入りのコーヒーを飲むと、カフェインレスのときより食後の血糖の上がり方が147〜216%大きくなりました。別の試験でも、糖の飲料の30分前に飲んだコーヒーは、水に比べてインスリンを上げました。

反対の結果もあります。2023年の研究では、27人のボランティアが採血の1時間前にコーヒーを1杯飲んでも、ふだんの生化学検査と血球の結果に臨床的に意味のある変化は出ませんでした。うっかり飲んでしまった人には安心材料ですが、空腹時血糖を守るためのルールそのものは変わっていません。

お酒は、前日から控えるよう案内されるのがふつうです。絶食の時間とは別に、より長く控えるよう求められることもあります。

前日の夜の過ごし方

夕食は、いつもどおりで構いません。特定の食品が禁止されているわけではありませんが、日本予防医学協会は前日の夕食について、アルコールや脂肪分の多い食事を控え、消化のよいものを21時ごろまでに済ませるよう案内しています。避けたいのは、いつもより重い、遅い、お酒の多い夜です。

あとは予約時刻から逆算します。朝9時の受付で10時間あけるなら、最後の食事は前夜の23時。21時に済ませておけば、少し遅れても安心です。朝早い枠を選べば、絶食の大部分を寝ている間に過ごせます。

  1. 締め切りを先に決める予約時刻から逆算して、最後に食べられる時刻を夕方のうちに確認しておきます。
  2. 水分はとってよい夜は就寝前まで水やお茶を飲めます。当日の朝は施設の案内どおりの量と時刻で。
  3. 余計なものは控えるあめ、ガム、コーヒー、ジュース、たばこは採血が終わるまで待ちます。
  4. 終わったあとの軽食ふらつきやすい人は、検査後に食べるものを用意しておくと待ち時間が楽になります。

薬は自己判断でやめない

いつもの薬は、医師から別の指示がない限り、少量の水で飲むのが基本です。日本予防医学協会は、心臓病や高血圧の薬を朝7時までに少量の水で飲んでから受診するよう案内しています。そのほかの薬は、主治医の指示に従うか、持参して検査後に飲む方法もあります。持病の薬の扱いは別のページで詳しく説明しています。

いちばん大事な例外は糖尿病です。インスリンや一部の飲み薬は血糖を下げるため、絶食中にいつもどおり使うと低血糖の危険があります。済生会神奈川県病院も、糖尿病の薬やインスリンは主治医と相談のうえ指示に従うよう案内しています。健診の前に、当日の朝どうするかを主治医に確認してください。

サプリメントにも注意が必要です。鉄の検査が含まれる場合、鉄剤やサプリをいつまで止めるかは事前に相談しましょう。何を飲んでいるかは、受付や問診票で必ず伝えてください。

午後の健診、または食べてしまったとき

午後に受診する健診では、朝食を軽くとれることがあります。南相馬市立総合病院の午後健診は、前日の夕食に制限を設けず、当日の朝食は午前7時までに軽食で済ませるよう案内しています。食パン1枚や素うどんなど、糖分や脂肪分の少ないものが例として挙げられています。

決められた時間より後に食べてしまったら、採血の前に受付で伝えてください。中止とは限りません。国のルールでは、食事開始から3.5時間以上たっていれば随時血糖として判定でき、中性脂肪も随時の基準で読めます。黙って受けるのだけはやめましょう。空腹時のつもりで読まれた食後の血糖は、ない病気を疑わせたり、ある病気を隠したりします。