女性と男性で違うもの
日本の共用基準範囲では、40項目のうち12項目が男女別に設定されています。いちばんわかりやすいのはヘモグロビンで、男性13.7〜16.8 g/dL、女性11.6〜14.8 g/dLです。ヘモグロビン12.8 g/dLは、女性なら基準範囲の中ですが、男性なら「L」が付きます。
クレアチニンが男女で違う理由は別にあります。クレアチニンは筋肉で作られ、平均的な筋肉量が男女で違うため、共用基準範囲も男性0.65〜1.07 mg/dL、女性0.46〜0.79 mg/dLです。クレアチニンから推算糸球体濾過量(eGFR)を出す日本の式は、年齢と性別を筋肉量の代わりに使い、女性では0.739を掛けて補正します。この差は腎臓そのものより、筋肉の差を反映しています。
大切なのは、基準値は「誰にとっての基準値か」とセットだということです。結果の用紙には、検査施設があなたを当てはめたグループの基準値が印刷されます。性別や生年月日が間違って登録されていると、印も間違って付くことがあるので、確かめる価値があります。
- ヘモグロビン思春期以降は、女性の下限が男性より低く設定されます。それより前は、男女でほぼ同じです。
- フェリチン閉経前の女性は低めで、施設によっては閉経前の女性専用の基準範囲を示しています。
- クレアチニン筋肉から作られるため平均すると男性が高め。性別で補正されたeGFRと一緒に読みます。
- 尿酸とγ-GT共用基準範囲は男女別で、尿酸は男性3.7〜7.8、女性2.6〜5.5 mg/dL、γ-GTは男性13〜64、女性9〜32 U/Lです。
月経、閉経、鉄
体の鉄の貯蔵量を示すフェリチンは、人生の時期がどれほど値を左右するかをよく示します。国立循環器病研究センターは、フェリチンの基準範囲を男性39.90〜465 ng/mL、女性6.23〜138 ng/mLとし、女性の範囲は閉経前の値だと明記しています。共用基準範囲を作った研究でも、女性の5項目は45歳前後で分けて設定されました。閉経の前後で値が大きく変わるからです。
海外の大規模データも同じ傾向です。健康な米国の成人7,990人の2026年の研究では、フェリチンの平均は閉経前の女性で約102 ng/mL、53歳未満の男性で約258 ng/mLで、血清鉄も閉経前の女性で最も低くなっていました。米国の病院で4万8,000人以上を調べた別の解析では、フェリチンがどこから下がると赤血球の値が悪くなり始めるかは、若い女性で約15 ng/mL、年長の女性で約25、男性で約35と、グループで違っていました。
つまり、印刷されたひとつのフェリチンの基準範囲、男女別の範囲でさえ、人によっては合わないことがあります。フェリチンが下限に近いときは、あなたの年齢、女性なら閉経の前か後かを踏まえてどう読むべきか、医師に尋ねてください。
年齢で変わるもの、そのゆっくりさ
検査の上では、子どもは小さな大人ではありません。乳幼児期から思春期にかけて値が変わるため、子どもの基準値は年齢と性別ごとに決められています。ヘモグロビンでは、下限が幼児の約10.4 g/dLから5〜11歳の約11.4 g/dLへ上がり、男女の差は思春期になってから現れます。日本の共用基準範囲は、主に病院職員などの成人のデータから作られたものです。子どもの結果を成人の一覧で読んではいけません。
大人では、変化はゆっくりで、数も限られます。腎臓の働き(eGFR)は、腎臓の病気のほかの兆候がなくても、健康な加齢とともに下がっていきます。大規模な総説では、死亡リスクが上がり始めるeGFRは、若い成人で約75、高齢者で約45と違っており、著者らは腎臓病の基準を年齢に合わせるべきだと論じています。
2023年の総説も、高齢者で尿たんぱくのないeGFR 45〜59では、腎不全や死亡の相対リスクが高くならないとしています。特定健診では、eGFR 60未満が保健指導判定値、45未満が受診勧奨判定値です。年を重ねてeGFRに印が付いたら、尿の検査も合わせて読むべきかを尋ねてください。
妊娠中には妊娠中の基準値がある
妊娠すると、体の中の状態は時期ごとに変わります。厚生労働省の資料によると、妊娠8〜9か月ごろには循環する血液の量が非妊娠時より約1リットル(30〜40%)増える一方、血球の数はそれほど増えないため、血液が薄まり、貧血になりやすくなります。2024年の国際的な解析では、ヘモグロビンの下限は妊娠初期で約11.0 g/dL、妊娠中期で約10.6 g/dLと、妊娠していないときの12.0より低くなっていました。
甲状腺、肝臓、腎臓、血算の値もそれぞれ動きます。2021年の総説は、多くの検査施設がいまも妊娠中の女性に非妊娠時の成人の基準値を当てはめていると指摘しています。米国甲状腺学会の妊娠のガイドラインは、甲状腺の検査を妊娠中にどう読むかに1章を割いています。
妊娠中の結果を非妊娠時の基準値で読むと、間違った理由で不安になったり、逆に安心したりします。妊娠中なら、検査施設が妊娠用の基準値を使ったかを尋ね、結果は助産師や産科の医師と一緒に読みましょう。
このような一覧が教えてくれないこと
どこに掲載された基準値も、このページを含めて、読むための目安です。あなたの値に当てはまるのは、結果の用紙で値の横に印刷された基準値です。測定方法、機器、対象となる集団で決まるからです。
基準値の外にも健康な人はいます。ひとつの検査で約20人に1人です。米国の家庭医療の2025年の総説は、基準値から外れる結果の数は、医学的に意味のある結果の数よりはるかに多いと指摘しています。一覧は「あなたの年齢の女性や男性にとって、よくある値はどれくらいか」には答えてくれますが、「あなたの体に何が起きているか」には答えてくれません。
どの一覧よりも役に立つ比較
それは、前回のあなた自身の結果です。3年間ずっと基準値を少しだけ外れたまま変わらない値と、同じ値が初めて現れたのとでは、意味が違います。性別や年齢ごとの範囲では、この違いを見分けられません。
臨床検査の専門家は、2回の結果の差がどれくらいあれば、その検査のふだんの日々のゆらぎを超えるかを計算する方法を持っています。気になる変化が、その線を超えているかを尋ねてみてください。経過は、あなたの記録のなかで、ほかの誰も持っていない部分です。