鉄の検査に含まれるもの

貧血そのものはヘモグロビン(血色素量)で判断しますが、原因として最も多い鉄不足を調べるには、ふつう4つの項目を組み合わせます。血清鉄、TIBC(総鉄結合能、UIBCで示されることもあります)、トランスフェリン飽和度、そしてフェリチンです。フェリチンは蓄えている鉄を、残りの3つは今流れている鉄と、それを運ぶ仕組みがどれだけ満たされているかを表します。

フェリチンは体の鉄の貯金、後のためにしまっておく金庫です。貯金と流れは別の問いに答えるので、血清鉄だけの結果は読みにくくなります。

  1. フェリチン鉄の貯金です。「鉄が足りているか」というよくある疑問に、いちばん大事な数値です。
  2. 血清鉄採血したその時に流れている鉄の量です。1日の中で変動するので、鉄の検査はふつう午前中に行います。
  3. TIBC(またはUIBC)血液が鉄を運べる力の大きさを、鉄を運ぶたんぱく質を通して測ったものです。
  4. トランスフェリン飽和度運ぶ力のうち、実際に鉄で埋まっている割合です。20%未満は鉄不足のサインとして広く使われています。

健康診断のヘモグロビンでは、鉄不足は見えない

職場の定期健康診断で必須の貧血検査は、ヘモグロビンと赤血球数です。フェリチンは含まれていません。特定健診のヘモグロビンの判定値は、男性13.0 g/dL以下、女性12.0 g/dL以下で保健指導、男性12.0以下、女性11.0以下で受診勧奨です。けれども、ヘモグロビンや赤血球の大きさが変わるのは、鉄不足がしばらく続いて赤血球づくりに影響が出てからです。

その差は思ったより大きいものです。日本の18歳から25歳の女子学生1,019人を調べた研究では、24.5%がフェリチン12 ng/mL未満の鉄欠乏でした。東京の若い女性76人の研究では、鉄が不足していた39人のうち29人、およそ4人に3人はヘモグロビンが正常で、貧血にはなっていませんでした。アメリカの全国調査でも、鉄欠乏の若い女性の83.6%に貧血はありませんでした。血算が正常でも、鉄の貯金が少ないことはあるのです。

フェリチンの基準は、本当に意見が分かれている

自分の数値を何かと比べる前に、知っておきたいことがあります。日本の検査結果ではフェリチンはng/mLで書かれ、論文でよく使われるµg/Lと同じ数字になります。30 ng/mLと30 µg/Lは同じ量です。

専門学会の29の指針を比べたシステマティックレビューは、鉄欠乏の診断基準は指針によって大きく違うとしたうえで、多くの状況でフェリチン100、トランスフェリン飽和度20%を基準に考えるべきだと結論づけました。ただし、月経の多い健康な若い女性などの特別な場合は別です。炎症のない人を対象にしたスイスの専門家の合意では、30で貧血のない鉄欠乏を十分に見分けられ、30から50で飽和度が20%未満でも鉄欠乏を示しうるとしています。米国消化器病学会(AGA)は、貧血のある人の鉄欠乏の診断に、15ではなく45を基準にするよう勧めています。日本の研究では、12 ng/mL未満を鉄欠乏とする基準もよく使われています。

まとめると、実際の結論ははっきりしています。検査機関の下限が12や15のときにフェリチン25でも、自動的に大丈夫とはいえません。用紙に印刷された下限は、いくつもある考え方のひとつです。表で決めるのではなく、症状と一緒に医師に相談する問いです。

30
炎症のない人でのスイスの合意の基準(ng/mL)[4]
45
貧血のある人での米国消化器病学会(AGA)の基準(ng/mL)[5]
100
29の指針のレビューが多くの状況で勧める基準(ng/mL)[3]

炎症は鉄不足を隠す

フェリチンは炎症のときにも増えるたんぱく質で、蓄えている鉄の量とは関係なく上がります。炎症性腸疾患、心不全、慢性腎臓病、あるいは一時的な感染症でも、下の貯金が少ないのにフェリチンが基準範囲の中まで押し上げられることがあります。

そのため鉄の検査は、CRPのような炎症の指標と並べて読み、トランスフェリン飽和度が役立ちます。こうした慢性の病気について、根拠をまとめたレビューは、フェリチン100未満または飽和度20%未満を鉄欠乏と矛盾しないもの、フェリチン100から300で飽和度20%未満を鉄欠乏を裏づけるものとしています。

反対の場合は単純です。炎症はフェリチンを下げるのではなく上げるので、低いフェリチンを炎症のせいにすることはできません。

鉄やフェリチンが低いとき、高いとき

血清鉄が低いのと、フェリチンが低いのは、どちらが悪いのでしょうか。2つは競い合う数値ではなく、別のものを測っています。29の指針のレビューでは、すべての指針がフェリチンで鉄欠乏を定義していました。貯金を映すからです。血清鉄だけが低いのはその瞬間の値にすぎず、蓄えが十分でも炎症で低く抑えられることがあります。

高いときにも候補があります。血清鉄が高ければ、ヘモクロマトーシスのような鉄の過剰、鉛中毒、肝臓の病気が考えられます。フェリチンが高いときは、鉄が多すぎるより炎症を反映していることがよくあります。どれに当たるかは検査全体から読むので、高い値は結論ではなく医師と話すきっかけです。

検査の前と、検査のあと

医療機関によっては12時間の絶食を求められることがあり、鉄の検査はふつう午前中に行います。鉄のサプリメントを飲んでいる場合は検査機関に伝え、事前に中止すべきか相談してください。答えはどの項目を測るかによって変わります。

鉄不足が見つかったら、数値より「なぜ」が大切です。日本の女子学生の研究でも、月経の量が多い人では鉄欠乏のリスクが高くなっていました。鉄欠乏は理由の説明を必要とする所見で、米国消化器病学会(AGA)は、貧血のある人で原因を探す方法についての指針まで出しています。その説明を受けることこそ、受診する意味です。