TSHは逆向きに動く。それがいちばんの鍵

甲状腺の血液検査の結果は、まずTSH(甲状腺刺激ホルモン)から読みます。そして、TSHは甲状腺とは逆向きに動くことを覚えておきます。TSHが高ければ甲状腺の働きは低め、TSHが低ければ働きすぎを疑います。TSHは甲状腺から出るホルモンではなく、脳の下垂体が「もっと働いて」と甲状腺に送る合図で、2024年の内分泌学のレビューは、甲状腺の病気を調べる最初の検査としてTSHがもっとも適していると述べています。

下垂体はサーモスタットのように働きます。甲状腺ホルモンが足りないと感じると合図を強め、多すぎると感じると弱めます。だからこそ検査結果のTSHは、それが表す甲状腺と反対の向きに動き、初めて見る人はたいてい戸惑います。

FT4(遊離サイロキシン)は甲状腺ホルモンそのもので、体がすぐ使える形のものです。FT3はより作用の強い形で、ふつうはTSHとFT4で疑問が残るときに追加されます。なお、職場の定期健康診断や特定健診の必須項目に甲状腺の検査は含まれていないため、ふだんの採血で自動的に測られているとは限りません。

TSH・FT4・FT3、どれがいちばん大事?

最初に答えるのはTSHで、どこまで進んでいるかを示すのがFT4です。2つを組み合わせると、いくつかの典型的な形に分かれ、医師はそれぞれに名前をつけて呼びます。

  1. TSHが高く、FT4が低い甲状腺の働きが落ちている形で、甲状腺機能低下症と呼ばれます。
  2. TSHが高く、FT4は正常潜在性甲状腺機能低下症です。下垂体が強く合図を送ることで、ホルモンはまだ範囲内に保たれています。
  3. TSHが低く、FT4やFT3が高い甲状腺が働きすぎている形で、甲状腺機能亢進症と呼ばれます。
  4. TSHが低く、FT4は正常潜在性甲状腺機能亢進症です。甲状腺ホルモンの薬を飲んでいる人では、量がやや多い可能性もあります。

TSHが高く、FT4は正常:いちばんよくある結果

潜在性甲状腺機能低下症は、はっきりした機能低下症よりずっと多く、検査結果を持ち帰って首をかしげる人がいちばん多い形です。

どう対応するかは、実はまだ決着していません。2023年のレビューは、この状態が正常とはっきりした機能低下症の中間の経過と関連する一方で、甲状腺ホルモンを補う治療が役立つという根拠は乏しいとまとめています。数値だけで決めず、年齢、TSHの高さ、症状、ほかの持病をもとに判断するのが指針の考え方です。

一般診療向けの指針は、甲状腺が原因かもしれない症状のために治療を始めて改善しなければ、中止を検討するよう勧めています。TSHについた印が、そのまま治療の合図になるわけではありません。

日本ならではの要因:昆布などのヨウ素

日本はヨウ素が足りている国で、昆布のようにヨウ素を多く含む海藻を食べる習慣があります。ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料ですが、とりすぎると、かえって甲状腺の働きを抑えることがあります。

昆布の産地である北海道の沿岸5地域で1,061人を調べた研究では、TSHが高い人の割合は地域によって0%から9.7%まで差がありました。甲状腺の自己抗体がない人に限ると、尿中のヨウ素が多い人では12.1%に機能低下が見られ、ヨウ素が多くない人の2.3%を大きく上回っていました。研究者は、慢性甲状腺炎(橋本病)に加えて、ヨウ素のとりすぎも機能低下の原因として考えるべきだと結論づけています。

TSHが少し高いと言われたら、昆布やとろろ昆布、昆布だし、海藻のサプリメントをどのくらいとっているかを医師に伝えてください。量を自己判断で極端に変えるのではなく、検査結果とあわせて相談するのが安全です。

高いのと低いの、どちらが悪い? 低すぎるTSHにも注意

基準範囲より低いTSHは、安全な側というわけではありません。一般診療向けの指針は、範囲を下回るTSHが心房細動や骨粗しょう症と関連するため、すでに甲状腺ホルモンの薬を飲んでいる人も含めて避けるべきだとしています。

治療中の人にとって、目標は「できるだけ低いTSH」ではなく「範囲内のTSH」です。

同じ人でもTSHが変わる理由

TSHには大きな1日のリズムがあり、早朝より午後から夕方のほうがはっきり低くなります。その1日の揺れは、測定機器のメーカーによる違いより大きいほどです。朝8時の採血と午後4時の採血はそのまま比べられないので、経過を追うときは採血の時刻をそろえます。ある検査室が採血時刻に応じてTSHの基準を調整したところ、甲状腺の働きすぎに見える結果が、とくに午後の採血で大きく減りました。

薬も結果を動かします。2024年のレビューは、甲状腺そのものの働きを変えるアミオダロンやリチウム、下垂体の合図に影響するステロイド、補充するホルモンの吸収を変える薬などを挙げています。

そしてビオチンです。髪や肌、爪のためのサプリメントに高用量で含まれることがあります。甲状腺の検査の多くはビオチンを利用した測定法で、血中のビオチンが多いとFT4とFT3が見かけ上高く、TSHが見かけ上低く出ることがあります。甲状腺が正常な人に、働きすぎとそっくりの形が出てしまうのです。

甲状腺の結果をもとに動く前に

どの基準範囲も健康な人の20人に1人ほどを外し、TSHは1日の中でも動きます。1回だけの軽い異常なら、何かを決める前に再検査するのが基本です。結果が自分の体調と合わないときも、何かが検査に影響していないかを確認する理由になります。

甲状腺ホルモンの薬を飲んでいる人は、採血の前と後のどちらに飲むかを医師に確認し、毎回同じにしてください。妊娠中や妊娠を考えている場合は、結果を読む医師に必ず伝えましょう。

  1. これは傾向か、1回の値か?これまでのTSHの結果を並べて見せてもらいましょう。できれば同じ時刻、同じ検査機関で測ったものです。
  2. 治療で何が変わるのか?TSHが少し高いだけなら、どんな効果が期待できるのか、効いているかどうかをどう確かめるのかを尋ねてみましょう。